9日目、退院検討、点滴抜去
夜中に痛みを感じて目が覚めた。腹の痛み。いわゆる「おなかを壊した」時の痛みとは違う、鈍いけどなかなかにズシリとくる痛みだ。手術してから今までになかった痛み。食事がだんだん流動食から普通食に変わってきているのが影響してるのだろうか。寝返りはなんとかできるし、耐えられないような痛みではなかったが、朝の検温までに何度か目を覚ました気がする。寝汗もかなりかいていた。この終盤にきて、何か具合が悪くなったのかと不安になったが、朝になったら痛みはなくなっていた。
朝食を取っているときにE先生が来た。「問題なさそうだし、そろそろ退院を考えてもいいかも」とのこと。昨日のヌシ様との面会で退院がいつになるかという話をしたところだったのでビックリするやら嬉しいやら。「できるだけ早く退院したい」という希望を伝えた。
9時半ごろ、看護師さんが点滴を持ってやってきた。測尿はもうおしまいにして、点滴も今日この1本やったら終わりになるとのこと。もう排尿のたびに狭い個室に点滴台を引っ張りこまなくていいし、測尿カップに勢いを調節しながら放尿しなくていいし、出した尿の量をすべて書きとめなくてもいいんだ。大した手間ではないものの、一日に何回もあることだから地味に面倒だったのでありがたかった。そしてこのタイミングで体重を測るとのこと。ナースステーションの前に置いてあるタニタの体重計がウチのとおんなじヤツだった。69.1kg。あれ、意外とそんなに減ってないな。もっと減ってるかと思ったら。でもやっぱり70は切っちゃってる。ここ数年で最低だろな。その後、トイレでウンコしたら、まだ少し柔らかいが下痢でないウンコが出せた。手術後初めてだ。夜中に感じた腹痛もすっかり治まっていたし、どんどん快方に向かっている実感が持てて嬉しい。
朝は五分粥だったが昼食にはとうとう全粥が出た。食べた後はまたPCとかもろもろ持って談話室へ「出張」。いつもの窓際の席に座って、のんびりPC作業をしていると、またE先生がやってきた。退院のことについての確認だった。今日で術後から丸1週間になるので、明日、血液検査をして問題がなければもう退院してよいと思うが、主治医であるD先生が今日までお休みだとのこと。いやD先生が今日いなくたってE先生が大丈夫と思われるならそれでもういいんじゃないですかねどうせと言っちゃぁなんですが今後も通院はするワケですし問題ないならもう明日失礼したいなって。そんなに前のめりならと、E先生は明日退院するように調整すると言ってくれた。「こうやって談話室で過ごしていられるくらいですしねー」と。そうそうそうなんです。ウンコも固まってきたし。
続けてE先生が「もしよければ、手術の結果について写真を見せて説明する」と言ってくれた。是非伺いたいとナースステーションについていく。デスクの前に座らされて、モニタに映した画像を見せてくれた。僕の腹の中にあった、ガンのできた大腸の一部。もっと正しく言うと、今回の僕のガンは大腸に入ってすぐのところにできていたので、切り取られたのは「回盲部」といって小腸(回腸)と大腸(盲腸と結腸)の繋ぎ目の部分だ。バウヒン弁と呼ばれる、小腸から大腸への関門にあたる切れ込みのような小さな穴がある。切り取られた腸はガンが丸ごと見えるように切り開かれて細いピンで止められていた。ビンク、オレンジ、肌色の混ざったヒダの多い薄い肉片の上に、濃い紅色をした奇妙な肉塊が盛り上がっていた。一緒に写し込まれた定規が、肉片全体で25センチくらいの長さであることを示していた。25センチって、30センチのモノサシを考えると結構長いよな。まぁ、大腸って1.5メートルとか2メートルくらいあるらしいから6分の1とか8分の1とかくらいか。E先生は、手術は無事に終わっていること、これからこの切り取った「手術検体」を分析して病理検査を行い、最終的な診断をすることなどを教えてくれた。ガンの進行度合いの分類で、「pT2」とか「pN0」みたいに指標のアタマに「p」がついているが、これは「病理学的、Pathological(パソロジカル)のpで、その値が病理検査をした結果で判断したものであることを示す」こともこの時に教わって知った。ちなみに手術前の検査などの事前推定みたいなものは「臨床的、Clinical(クリニカル)」で「c」になるんだそうだ。ともあれ、詳しくは検査待ちとはいえ、無事に手術は終わり、こうして座って問題なく説明を聞いていられる上に、もうじき退院できるということの嬉しさのほうが大きかった。
ヌシ様に、「明日、退院できるかも」と速報を知らせた。この時点ではあくまで「できる『かも』」ということを念押しして。今回の入院でも何度か感じたが、いかんせんたくさんの人が関わっていることというのはえてして話が二転三転しやすいもので、この病院という大組織もご多分に漏れず、というかむしろそういうことが起きやすい場所ではないかと思ったので、今回の入院についても、結構しつこめに確認を入れた。E先生にも「明日の退院は8割方確定」、つまり「まだ確定していないんですね」ということを確認したし、その上で、看護師さんにも、E先生と話したことを伝えた上で「明日の退院がOKかNGか、どちらかが判明した時点で教えてほしい」と念押ししておいた。ヌシ様にも、また分かり次第知らせると伝えた。
15時過ぎ、最後の点滴が終わり、とうとう点滴の針が抜かれた。手術後、酸素マスクに数値モニタのケーブルから、尿カテーテル、痛み止めと少しづつ体に繋がれていたいろいろな管が外されていき、最後に残っていたのが点滴だったが、それもついになくなった。煩わしい点滴台ともオサラバだ。何の管もつながっていないことがこんなに解放的に感じるとは思わなかった。紙パンツと使い捨てパッドはまだ装着中だけど。
その後も夕食まで談話室でPC作業をして過ごし、また全粥の夕食が出て、食べ終わったあたりで看護師さんが「明日の退院で確定」という朗報を知らせにきてくれた。「ガチですか?」「ガチです」。やった、とうとう明日で退院だ。話が聞こえたようで、お向かいのベッドの患者さんもおめでとうと声をかけてくれた。ヌシ様にも確定した旨の連絡を入れた。ヌシ様が、「退院は迎えに行きたいが、急な話だったので調整が追いつかず、少し待たせてしまうかもしれない」と言ってきた。自分としては、もう普通に動けるし、バスを使えば荷物を持って帰るのも問題なさそうなので、わざわざ時間を割いて迎えに来なくても問題なかったし、それを一応伝えたのだが、ヌシ様は「見送りもしなかったし、ししまるも連れて運転できるようになったから、迎えには行きたい」と譲らなかった。家を空けてしまった負い目もあって、ここはヌシ様の望むようにしようと思い、のんびり迎えを待つと伝えた。
夜、恒例の院内ウォーキング。ようやく点滴台もなくなって普通に歩けるようになったのだが、驚いたことに昨日まであった脇腹の痛みが出なくなっていた。点滴台を引っ張りながら歩くという姿勢が原因だったのだろうか。もはや確かめることもできなかったが、痛くならないならそれに越したことはない。相当なテンポの早歩きをしても、汗をかくことはあっても脇腹はまったく痛まなかった。これなら、退院したあともいままで通りししまるの散歩に出られる。退院直前のこの回復が、本当に嬉しかった。
昼間に談話室で書いた文章をまとめて、ブログに記事を投稿して、この日は早く寝た。
10日目、退院
朝7時に起きて検温と採血。体温も血圧も平常。顔を洗ったあと、床頭台やベッド周りを軽く片付けた。と言っても、引き回したケーブル類を抜いてしまうくらいだったけど。
もう退院ということで、朝食を取ってから退院まではバタバタと人の出入りが多くあっという間に時間が過ぎていった。朝食後すぐに看護師さんから退院後に持ち帰る整腸剤を渡され、「担当の管理栄養士」という書面上で名前だけは見ていた栄養士さんと初めてお会いして退院後の食事の指導を受け、また看護師さんが来て会計担当の人が請求書を持ってくると説明され、予約の時間になったのでシャワーを浴びて病院のガウンから自分の服に着替え、戻ったらもう請求書が届いており、さらにE先生がやってきて朝に採血した入院中最後の血液検査も問題なかったと聞かされ、病棟を出られるよう荷物をまとめて同室のお向かいさんに挨拶した。
帰る時の服装は、入院した時とほとんど同じだった。着てきたジャージにダウン、靴だけ、ヌシ様が最初に面会に来た時に持ってきてもらったスポーツサンダルをそのまま履いてきた(靴はスポサンと交換で持って帰ってもらっていた)。下着のシャツとバンツも、手術まで着ていただけでそのあとはずっと使い捨てパンツと貸し出しガウンで過ごしていたから、新しいのをわざわざ出すこともないなとそのまま使った。結局、家から持ってきた服は下着も含めて一度も使わずカバンから出しもしなかった。何事も経験だなと思った。
午前9時40分、ナースステーションで看護師さん達に挨拶をして、病棟を降りた。受付の自動精算機で精算を済ませて、午前10時、退院したとヌシ様に伝えた。昨日から聞いていたとおり、病院に着くのが昼頃になるので待っていてほしいとのこと。織り込み済みだったので問題なし。入院中は利用が許されていなかった食堂スペースに行って「キングダム」の続きを読んで待った。この入院で読み始めた「キングダム」、60巻の途中まで読み進めた。なかなかがんばったな。また近いうちに続きを読まなきゃ。
看護師さんや栄養士さんから、退院後の生活や食事について「絶対にNG」と言われたものは特になかったが、全般的に「いきなりムチャなマネはするな」という旨のことは言われていた。普通に散歩する分には問題ないが、いきなりアクセル全開で激しく運動したりするのはよくないよ、くらいに。そして特に「腸閉塞にならないよう、しばらくは気をつけろ」と言われた。今回の手術の後で一番懸念されることが腸閉塞なんだそうだ。それを防ぐためにも術後1週間、病院で診てもらっていたのだが、退院後も気をつけるようにと。同室のお向かいさんも、今回の入院は手術して退院したあとに腸閉塞を起こしてしまっての入院だったそうだ。看護師さんに、腸閉塞が起きているかどうか、どうやって確かめればいいのか聞いてみたら、「もし腸閉塞になっちゃったら、痛みやら吐き気やら不快感やら、自身でその不調にすぐ気づくはず」とのこと。ふむふむそんなモンなんだ。ともあれ、基本的には「下痢や便秘にならないように自分で気をつけなさい」とな。
さて、昨日の時点で、ヌシ様から「退院の打ち上げはどうしようか」と言われていた。自分のカラダを考えるに、何か簡単で消化によさそうなものを食べたほうがいいんだろうけど……
「快気祝いに寿司とかどーかねー」
腸を切り取る手術をしてきた人間の退院直後に生魚と海藻を食わせようとな。コレぞ、しし家スタイル。
「いやウチのオヤジの退院の時には本人の希望で寿司と餃子だったから」
そりゃアナタのお父さんの入院は消化器系の手術じゃーなかったですからねぇ。
いやしかしこの快気祝いは僕のためのお祝いではないのだ。ヌシ様の、ひいてはししまる家の祝い事なのだ。ようやく店長が戻ってきたぞと。ハラをちょっと切ったくらいでヌルいことは言ってられん。大腸ガンひとつできたくらいで甘えてちゃぁ、しし家の家政夫は務まらないのである。いつもの宅配寿司「ぎんの皿」に、今日の夜の注文を入れた。ちょうど節分だ、恵方巻も頼んじゃえ。
お昼頃、ししを連れたヌシ様がクルマで病院に到着。10日ぶりに会うししまるは、びっくりするくらいに「いつも通り」の対応だった。特に喜びもしない。嫌がりもしない。ただ、「散歩まだ?」って。はいはいわかりましたわかりましたよー。
家について、荷解きを済ませて、ししの散歩に行った。いつもと同じコースを歩きながら、長かったような短かったような入院がホントに終わったんだなぁと思った。まだしばらく通院はするけど、入院はもう当分しなくて済みますようにと願った。
ただいま。さぁ宴会だ。


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