ダイフンキ 03 ガーン、ガン、ガーン

2026/02/24

ガン 犬以外の話

t f B! P L

たぶん、ガン

病院からヌシ様に送ったLINE。

 大腸カメラの管をケツの穴から引き抜かれ、潤滑剤でベトベトになったケツを丁寧に拭いてもらってから、検査室を出て待合室を挟んで向かいにあるカーテンで仕切られたベッドの並ぶ待機場所に行くように言われました。検査が終わったあとは、結果にかかわらずここで少し休んでから帰ることになっているようでした。僕はたまたま結果が「何もなかった」ではなかったワケですが。

「またすぐ来ますので、ここで待っててくださいねー。横になっていて構いませんよー。」

 連れてきてくれた看護師さんが言ってくれましたが、気持ちがソワソワしていてなんとなく寝そべる気になれませんでした。まだ検査着のまま、ベッドに腰掛けて待ちます。ほんのついさっきの出来事を思い出しながら。

 あー、ガンかぁ。ガンなのかぁ。なんかまだ全然よくわからんけど、たぶんガンで決まりなんだろなぁあの雰囲気。つーか見ちゃったもんね。いや見たからわかるのかってーとそうじゃないけどでもヤバかったもんねアレ色もカタチもヘンだし血も流れてたし。そんで周りの皆さんもあんなカンジだったしなぁ。えー、ガンかー。どうしよう。てかどうなるんだろう。何しなきゃいけないんだろう。あ、手術って言ってたよね。え、手術? 日帰りでできんのかな。そんなワケないか?

 どのくらい経ったか全然わからないまま、看護師さんが採血しにやってきて、続いてB先生もカーテンの中に入ってきました。

「明日のCT、手配しましたからねー。この書類にサインしてください。」

「はい。(サインしながら)先生、さっき『手術』っておっしゃいましたけど、やっぱり入院とかするんですか?」

「うん、だいたい2週間。早くて10日間。」

「あ、やっぱりそんなにするモンなんですね……」

 B先生はご自身の診察の予約も2日後の金曜に入れてくれました。「まだ検査の結果は全部出てないだろうけど、早く説明聞きたいでしょ」と。ごもっとも、ありがたいです。この時点で「たぶんガン」としか僕にはわかっていないんですから。

 B先生は去っていき、採血を終えた看護師さんが、次のレントゲン検査の場所まで付き添ってくれました。歩きながら世間話を交わします。

「いやー、初めての大腸カメラでまさかガンだとは思いませんでしたよ。」

「いま、かかる人多いですからねー。」

「ウチ、犬がいるんですけどねー、ちゃんと犬を見送ってやれるかなぁ。」

「ワンちゃんのことはワタシよく知らないんですけど、ワンちゃんのためにも早くよくならなきゃですね。症状がないうちに見つかったんだからよかったですよ」

 レントゲンの待合室まで来て、看護師さんも去っていきました。そっか、ガンの話でよく自覚症状が出てたらウンヌンみたいなこと聞くけど、今回の場合だと「自覚症状が出る前に検査で見つかった」ってことになるワケね。まぁだからといって何がわかるワケでもないんだけど、いまは気休めでもありがたいか。「たぶんガン」の他は何もわからないんだし。

 待つことしばし、レントゲン技師の方が呼びにきてくれました。「ガストロ注腸造影検査」といって、ケツの穴からチューブを入れっぱなしにしてバリウムみたいな(だけどバリウムではない)薬を腸の中に注ぎ込みながらレントゲンを撮るという検査です。先ほどの大腸カメラといい、この日は何かとケツの穴に入れたり出したりされる日でした。この程度で僕のケツの穴はビクともしませんが、問題は穴ではなく腸なんですよねいまのところ。

 さて、先ほどの大腸カメラ検査は、検査の間にたまーに体勢を変えるよう指示されるくらいで基本的には寝ているだけのされるがまま状態でしたが、この造影検査は体勢の変更やら呼吸の仕方やら、あっち向けこっち向け止まれ息を吸え息を止めろ息を吐けとひっきりなしに指示が出るので受ける側もなかなか忙しい検査です。そんでもって大腸カメラもベテランのB先生とまだ若手っぽいC先生がいたように、この造影検査も検査技師さんが二人いらして、どうみても若そうな方がベテランのようなのですが、もう片方の方は新人さんなのか慣れていないのかそれはもうどうでもいいですけどベテランさんに比べて指示が格段にわかりづらい。ベテランさんはたとえば「『右手から』『私がいる方に』『ゆっくり体を起こしてきて』『はいそこで止まって』『息を大きく吸って止めててくださいねー』」みたいに、聞いたことにそのまま従っていればいいだけなのでさほど大変でもなかったんですが、非ベテランさんは「あー、そこでこっちに、もうちょっと、あ、ちょっと」みたいな具合にご本人の直感を言葉にして指示になっていない指示出しをしてくるので「あーた、あーしにどーせーちゅーのよ」状態です。何かする前にアタマの中で「何を求めているのか」を読み取る作業を挟まなければならず、ケツに管が挟まっていることも相まって大変に面倒でした。なるほど「的確に指示を出す」というのは技術であるのだなと、警察官の方に同乗された自動車運転免許の試験を思い出しました。

 18時、さんざん転がされてレントゲンもようやく終わりました。ベテランの方の技師さんが、もう時間が遅いので、いつもの窓口が空いていないから会計も出入り口も夜間用のところを使うように教えてくれました。もともと大腸カメラの予約は15時半、実際に検査に呼ばれたのは16時を回っていたから、B先生がカメラでガンを見つけておそらく17時を回ろうというあたりで、腸がカラになっている今日のうちにやってしまえと遅い時間なのに注腸造影検査もねじ込んでくれたのでしょう。検査技師さんに対応のお礼を言いながら、いまわざわざ聞かなくてもいいことをあえて質問してみました。

「あのー、僕のガンって、どのあたりにあるんですかねー。」

「(僕のおなかの右側を手で示しながら)この辺ですね。ちょうど小腸から大腸につながっているところの近くです。」

 うーん、やっぱりこの方も「ガンではないかもしれないよ」みたいなことは言ってくれないのね。

 お会計を待つ間に、ヌシ様に「たぶんガンだ」と伝えました。スタンプと画像で。どう伝えようか少し悩みましたが、通話して言葉で説明する気にはなんとなくなれず、詳しくは帰って直接話そうと思ってざっくりめの第一報で済ませました。ちなみにヌシ様は、あまりに時間が遅くなったことで「きっと何かよからぬことがあったのだろう」とやきもきしていたそうです。

 ところで、手術も終わって退院したあたりで、「この時にヌシ様にガンを教えなかったら」なんてタラレバ話をしたことがあります。病気は病気として、入院の話も手術の話もするけれど、あくまでガンであることは伏せたままにしておく。ヌシ様に伏せておくということは、他の誰にも言えないということになるから、僕に関わる医療スタッフの方々と僕自身だけでガンと付き合っていく。そんなことができただろうか、と。やろうと思えば、もしかしたら、できたのかも知れません。ヌシ様は難しいことを自分で調べたりしないし。ですがやっばり、「いろいろムリがあるし、そもそもよろしくない」というオチに至りました。僕とヌシ様は書類の上では赤の他人ですが1年2年の付き合いではなく、分かりやすいカタチでいうならもはや「家族」です。身内の者の健康について自身と同様に知っておきたいと思う、というのはもっともな話です。それに僕自身としても、ガンのことをずっと自分と病院の方々とだけで、ヌシ様にも誰にも言えない話せない、というのは、面倒なことでもありしんどいことでもあったと思います。こうしてブログに書いたりすることもなかったでしょうし。

 お会計も終わり、夜間通用口から病院の外に出るともうだいぶ暗くなっていました。ずっと飲まず食わずで過ごしているので喉も乾いているしハラペコでしたが、ガストロ注腸検査のせいでハラがめちゃゆるになってしまっていたため、帰り道で下痢便を漏らすハメにならないように、途中で飲み食いせずにケツの穴をきつく締めながら夜道を歩いて帰ったのでした。

 とりあえず、「ガンじゃないかもしれない」と考えるのだけはやめておこう。直感的に強く思いました。おそらく、防衛本能だったのでしょう。それが正しかったとわかるのはほんの数日後でしたが。

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東京生まれ、東京育ち。 いまもヌシ様、ししまると一緒に都内のマンションで2人と1匹暮らし。 炊事と機械設備担当。

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