初日
入院当日はいい天気だった。日曜だけど早起きして、前日までに用意しておいたキャリーケースを引いて、バスで病院に向かった。ヌシ様がクルマで送るって言ってくれたけど、ししのこともあるし、問題なく行けるから大丈夫だと言って一人で出てきた。10年以上住んできて初めて使うバスだった。
病院に着いた。事前に説明されていた通り、休日なので正面玄関ではなく裏の通用口から入る。だいぶ余裕を持って到着したので受付の番号は2番だった。言われた通りにベンチで待っていると、次々に患者さんらしき人が入ってくる。みんな今日入院する人みたいで、僕と同じようにみんな大きなカバンを持ってきていた。年配の人が多かったけど、中には僕よりも若そうな人も。付き添いのいる人の方が多いかな。
所定の時間になって、係の人が一帯に声をかけて待っている人達を一ヶ所のベンチに集めた。20組くらいかな。ひとり、またひとりと呼ばれて席を立っていく。僕も呼ばれるのを待ったけど、一向にお声がかからずに気づけば一人だけ残された。どうしたことかと思ったらスマホに病院から着信。「店長さんですか? 今日、入院されることになってますよね?」 えぇだからいま病院の中で待ってるんですが。 「番号札って受け取ってます?」 2番で。 「それじゃそのままそこでお待ちください」。 待つことしばし、おそらく電話してきた女性とは違う方が僕のことを呼びにきた。何事もなかったかのように。どうやら受付側の手違いだったみたい。慣れないところで不安を煽ってくれるね。相手を疑う前に自分の不手際を確かめることの大切さを改めて思う。
言われたとおりにエレベーターで指示されたフロアのナースステーションへ行くと、看護師さんが対応してくれて、病室に案内された。ナースステーションからほど近い6人部屋、入ってすぐ右の通路側のベッド。これまでに、人の見舞いで病院の病室やベッドに来たことは何度かあるけど、自分が使うのは初めてだった。ベッドサイドは思っていたよりもだいぶスペースがあったし、同室の人はいたけどすぐ隣は空いているみたいだし、さほど気兼ねせずに過ごせそうで安心した。
病室に着いてほどなく看護師さんに呼ばれてナースステーションで入院や手術、病棟について説明を受ける。そのあと下の売店へ行って、必要だと言われた紙オムツと、手術後の患部を保護するための腹帯と、ついでにお茶とお菓子を少し買った。ベッドに戻ったらお昼ご飯が出てきた。初めての病院食はなんとスキヤキ。すごいゴーカじゃん、ちゃんとおいしいし。
手術は翌々日なので、買い物と昼ご飯が終わった後は丸ごと自由時間になった。持参した延長タップや充電ケーブルを配置して、スマホやらタブレットやらノートPCもカバンから引っ張り出す。事前にもらった資料で見た通りベッドサイドの床頭台にはカギのかかる引き出しが付いていたので、PC類も、この入院を機にヌシ様が買ってくれたワイヤレスイヤホンも、気軽に持ってきて使うことができた。当初、PCは持っていくかどうか悩んだけど、結果的に持ってきて大正解だった。「持っていっても周りに迷惑がかかるからタイピングなんかできないかもなぁ」なんて思ったけど、いらぬ心配だった。人の足音、人の話し声、わめき声、叫び声、怒鳴り声、機械のアラームその他もろもろ……病棟って賑やかなところなのね。昼日中にタイピングしてる音なんて聞かせたくても届かんわこりゃ。遠慮なくブログ書いたりインスタやったりヌシ様とメールやりとりしたりできた。
トイレに行った時に、病棟で最初に会話した看護師さんが声をかけてくれた。初めての入院なので少し落ち着かなくてと言うと、「うんとゆっくりしていってくださいね!」と言ってくれた。そんな旅館に泊まりにきたみたいなノリでいいのかいとちょっと笑えた。けど、「店長さん、なんかムリしそう」とも言われた。構ってオーラみたいなの出してたのかしら。出してるのかもね。いかんいかん。
夕方には晩ご飯が出てきてこれまたおいしくいただいて、夜はブログやらインスタやらを見て入院を知った友人知人が励ましの連絡をくれたり、買ってもらったイヤホンで音楽を聴いたりして楽しく過ごした。寝る前に、別に着替える必要もなかったけどせっかくお金払って借りることにしたから院内ガウンにも着替えてみたりした。
家を空けるのは心配だったけど、ヌシ様もししも楽しく過ごしているとヌシ様に教えてもらって安心した。
2日目
前日は早起きしたのと慣れない入院初日でくたびれたのとあって22時の消灯後すぐに寝入ってたんだけれども、さっそく「入院」の洗礼を受けた。夜、ナースステーションから患者さんの騒ぐ声がずっと聞こえてくる。割とどこでも寝られちゃう僕が寝られないくらいだからなかなかのモンだったと思う。実際、同室の人がナースコールを鳴らして、看護師さんに「あまりにうるさくて眠れないのでドアを閉めてほしいんですが……」と言っているのがカーテン越しに聞こえてきた。お気持ちに激しく同意するも当然ながらドアは閉めてもらえず、25時過ぎても騒がしい声は続いていた。「これが病棟、これが入院か」と思った。
なかなか眠れなかったのに朝6時には検温で看護師さんに起こされた。まだ眠かったけど仕方ないので起きて、そのままハミガキと洗顔して浴室の予約。
この日は手術前日ということで朝からもう絶食。水分とアメはOKとのことで売店で買っておいたお茶とベッコウ飴で過ごす。風呂は、浴槽は使えずシャワーのみだったけど、そこそこ熱いシャワーが浴びられたのでよかった。午前中に執刀医のD先生が見に来てくれた。さらにその後、初めて会うE先生が担当医だとのことで挨拶に来てくれた。
10時、予定通り下剤の服薬開始。大腸カメラの時にも飲んだ「ニフレック」。「2時間かけて2リットル飲んでひたすら下痢便を出し続けろ」という下剤。つい10日前にも飲んだばかりだから勝手もわかってるし病院のトイレなので遠慮なく出すドバドバ出しまくる。自宅よりトイレまでちょっと遠いのが難点だけど。
まだ出し切ってないようなお昼頃、手術の準備ということでヘソを掃除される。ベッドで横になってヘソをいじくられている最中に下痢便が吹き出たらどうしようとヒヤヒヤしたけれどもなんとか乗り切る。剃毛も必要と言われていたけれども入院前に自宅で入念に処理したヘソの下を見せたところ「もう剃る必要ないですね」と言われて勝ち誇った気分になる。
ヘソの処置の後、点滴を入れられ、点滴台につながれた。トイレに行くだけでも点滴台を引っ張り回さなきゃならないことで、一気に入院しているという実感が出てきた。ただ点滴を打たれたことで絶食の空腹感が和らいだ。
午後も、ときどき下痢便を出しにトイレに行きつつベッドサイドでネット見たりマンガ読んだり。この入院の機会に、まとめ買いしたままになっていた「キングダム」(当時既刊77巻)を読み始める。長い。ひたすら読む。やっぱり長い。
夕方になって、事前に聞かされていた手術前の歯科の検診を受ける。手術で全身麻酔の挿管の際に問題が起きないようにするためとのこと。現時点で10度の歯周病を抱えていてその治療を定期的に受けていることを伝え、奥歯が相当グラついていることも見てもらう。挿管の時に、歯が折れたり抜けたりすることがあるらしい。そんなことになったらイヤだけど、こんな歯にしちゃったのは自分なので仕方がない。「そうならないことを祈ります」と伝えておいた。
ベッドサイドの床頭台に向かってイスに座ってPCをいじっていると、カーテン側(つまり出入り口)に背中を向けているので、誰か来た時に背中越しに声をかけられるので落ち着かない。意外と頻繁に看護師さんやらいろんな人が出入りするし。なので、思い切って床頭台の向きを90度変えてみた。床頭台はキャスター付きだったので簡単に動かせた。それまでのイスではなくベッドに腰掛けて床頭台に向かうことになったけど、座る高さもこっちの方が具合がよくなった。
日暮れどき、大腸カメラを診てくれたB先生が見にきてくれた。「髪、ずいぶんバッサリやったね」と驚かれた。そうだ、B先生は髪を切る前の僕を見てるんだった。「キアイ入ってるね」と言われた。キアイ入れたというワケでもないんですけれどもねー。
手術当日の朝6時まで水分OKとのことだったので、夜はひたすらお茶と飴で過ごす。


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