4日目、清拭、離床、面会
朝6時半、検温で起こされた。起こされたと言っても、そもそもロクに眠れなかった。手術で体力を使ったのかカラダは疲れていて眠りたかったのだが、夜になって眠ろうとすると、ベッドのすぐそばに設置されたモニタのアラームがけたたましく鳴り出すのだ。酸素か呼吸か心拍か、何が原因なのかわからないがとにかく「異常」を知らせるアラームだということはわかる。しばらくすると鳴りやむのだが、気を抜いた時を見計ったようにまた鳴り出す。うるさくて仕方がない。看護師さんが一度様子を見てくれたが、どうやら酸素飽和度が下がるのと、あと意外にも「徐脈」でも引っかかってるらしい。そういえば、大腸カメラのきっかけになった直近の健康診断でも徐脈って言われたっけ、「特に気にするようなモンではない」って言われてたけど、こんなところで病人の安眠を阻害するとは、とんでもないヤツじゃないか徐脈。病室の他の人にも申し訳ない。どうやら深呼吸するとアラームが早く止むみたいだ。鳴ったら深呼吸、鳴り終わって寝落ちかけるとまた鳴る、この繰り返しだった。こりゃしんどい。正直なところ、夜中にウンコちょっと漏れたままになっていたことがどうでもよくなるくらいにしんどかった。
9時過ぎになって、看護師さんが全身を拭いてくれた。「清拭」ってヤツだ。ちょっとウンコ漏らしたままになっていたケツも、管が入ったままになっている股の周りも丁寧に拭いてもらって、パンツも履かせてもらって寝巻きも着せてもらった。うーむ、まさに「介助」。身体中を拭いてもらって、さっぱりしてものすごくありがたい気持ちと同時に、やっぱりというか当然というか申し訳ない気持ちにもなった。もちろん彼らは職務の一環としてやってくれているとわかってはいるのだけれども。大腸カメラの時にモニタに映ったケツ毛の残りが大変に悔しかったので今回の入院の前にVIOを徹底的に処理してきたんだけれども、そのカイあってきっと僕のケツと股間は拭きやすかったハズ。こんなカタチでデリケートゾーンのお手入れの重要さを実感するとはね。いや実際のところ、髪の毛含めて毛は短い方がもろもろの手入れがラクなのは間違いない。圧倒的に。
清拭が終わったあと、看護師さんが「寝返りもできてるし、たぶん問題なく歩けるんじゃないかな」と言ってくれた。寝返りができると言っても、まだ傷をかばいながら痛みをこらえつつ、なんとかどうにかようやっと、という具合だったんだけど、歩いても大丈夫そうだということは嬉しかった。背中につながっている痛み止めの管と股につながった導尿の管と腕の点滴を残して、それ以外のセンサーやマスク、足のマッサージポンプは外してもらえた。センサーが外れたってことは、これでモニタのアラームからも解放されたワケだ。やれやれほっと一安心。
事前に聞かされていたが、大腸の手術の後は「術後の早期離床」、つまり寝たきりにせずに早くベッドから出ることが大事なんだそうだ。術後に最も懸念されることの一つとして「腸閉塞」があるが、早期離床がその予防に大変効果があるとかで。たしかに、ずっと置いとくよりも動かした方が詰まりづらそうな気がするもんね。そんなワケで、僕もさっそく起き上がって歩いてみようということになった。まずはベッドから起き上がらねば。なるべく腹筋に力がかからないように、腕の力で上体を起こす。少し鈍い痛みがあったけど、起こし切ったらそれほどでもなくなった。引き続き、なるべく体幹の力を使わないように四肢を動かしてベッドに腰掛けた状態になり、ベッドの柵につかまりながらゆっくりと立ち上がった。次の瞬間、ひどい立ちくらみが襲ってきたが、落ち着いて深呼吸するとすぐに鎮まった。看護師さんに付き添ってもらいながら、点滴台を引っ張りつつゆっくりと歩き始める。一歩、また一歩。おお、まるで病人のような歩き方だが歩けている。あ、そっか病人なのか今は。
看護師さんと一緒に病棟をゆっくりと歩いて周り、2週したところで「一人で歩いてヨシ」となった。ただし、背中の痛み止めが取れるまでは同じフロア内だけにしろとのこと。売店に降りて行けるのはまだ先か。それでも歩けるようになったのは嬉しい。カラダは多少しんどいけど、思ってたほど痛みはないし。腸閉塞も防ぐということでそのまま病棟内をのんびり散歩し続けていたら、点滴の管に血が逆流してしまい、抗生剤の点滴が落ち終わるまでは病室にいろと言われてしまった。あとで知ったのだが、抗生剤の点滴は栄養点滴よりも血の逆流、いわゆる「逆血」が起こりやすいんだそうだ。言われたとおりに病室に戻って、ベッドに座った。お昼少し前。看護師さんから、お茶は飲んでもいいけど、甘い飲み物や飴は食事が出るまではダメと言われたので、お茶だけ飲んだ。動いたせいなのか、少しカラダがだるくなってきた。そういえば寒気もする。熱を測ってみたら前日の夜と同じく38.8度まで上がっていた。前日に腹に穴を開けて腸を切ったばかりなのだから炎症反応で熱が出るのは当たり前だ。むしろそれで歩けることのほうが驚きだろう。改めて痛み止めのすごさに感心すると同時に、この薬が切れたらどれほど痛むのだろうかと思うとまた不安になった。まぁ、今の時点で考えても仕方がない。とりあえず、看護師さんから欲しけりゃ出せると言われていたので解熱剤を打ってもらうことにした。
午後になって、ヌシ様が予定通りお見舞いに来てくれることになった。解熱剤もバッチリ効いてだるさや寒気もすっかりなくなっていたし、問題ないだろう。まだコロナの警戒があってか、面会は家族のみ、原則として病棟の談話室内のみというルールだった。同居家族とはいえ書面上は赤の他人であるヌシ様が問題なく面会に来られるのか気になっていたが、事前に説明しておいたこともあってなのか全く問題なく病棟に上がってこられたらしい。15時過ぎ、病棟に着いたという連絡をもらって、病棟のエレベーターの前まで迎えに行ったら、点滴台を持って立って待っていた僕を見てヌシ様がビックリしていた。「まさかフツーに出て来てると思わなかった」って。たしかに昨日の今日だしね。差し入れにペットボトルの烏龍茶を4本持ってきてくれた。ただでさえ「買い物のお使い」なんてハードルが高いのに「手術直後の見舞いに持っていく品」なんて高難度のお題目。「何か頼んだ方が気も晴れるか」と軽い気持ちで「何か飲み物を」なんて言ったことを昨日は後悔したもんだが、こうして無難にお茶を持ってきてもらえたからヨシとしよう。談話室に案内しておしゃべり。入院中のことや留守中のことなど、重要なことは事前にお互い報告済だから、何を話したかもあまり覚えていないくらいで、たわいもない内容だったと思う。それでもやっぱり顔を合わせて話ができたのはよかった。病棟で顔を合わせた直後は心配そうにしていたヌシ様も、割とフツー通りに話せている僕を見て、帰る時には少し安心していたようだった。導尿のしくみを全く理解していなかったので、サオの先から尿道に管を入れて体の中に通すんだと教えたら大変に驚いていた。個人的には知らないことにビックリなんだけど、コレってフツーは知らないモンなのか。「だってそんなの学校で習う?」。うーん、たしかに。
ヌシ様が帰ってしばらくしてから、担当医のE先生が様子を見にきてくれた。術後の経過も順調そうだとのことで、甘い飲み物や飴も摂っていいと言ってくれた。あれ、午前中に看護師さんに聞かされた内容と違うなぁ。間違いがあってもよくないと思ってその旨を伝えたところ、E先生の表情が見る間に険しくなり、「一体、何を根拠にそんなことを言ったのかしら」とご憤慨。「ゴメンなさいねムダなガマンをさせて」とあからさまな非難の態度です。いやいやいやいやそんなに怒らなくても。聞けてよかったけど。腸の蠕動を促すから、少しなら飴とかもいいんだってさ。ありがたく、先生が去ってすぐに術前に買った飴をクチに放り込んだ。一日半ぶりの甘さがカラダに沁みた。
その後、「キングダム」を読んで過ごしたが、前日の夜にロクに寝られなかったこともあって19時にはものすごく眠くなってしまい、早々に寝ることにした。「寝落ちするとアラームが鳴る」という拷問のようなモニタはもうない。安心して寝られると思ったが、カラダをベッドに横たえるだけで結構な痛みがあり、横になったあとで寝返ったりしようとするとやはりそこそこに痛むので、眠くて仕方がないのになかなかすぐに眠れなかった。なかなかにしんどいなと思いつつ、必死で眠ろうとしてようやくウトウトしかけたところで、看護師さんに起こされた。22時過ぎ、点滴の様子がよろしくないので針を変えるとな。これには参った。ようやっと寝ついたところだったのに。特に痛みとかもなかったんだけど、仕方がない。処置してもらって、また鈍い痛みの中で眠りの糸口を探った。
夜中、夢か現か音が聞こえる。カチャンカチャンと硬い音。この音、ししまるがゴハンの器をいじってる音かな。早く止めさせないと周りの迷惑になっちゃう。昨日の夜はゴハン出して食べなかったんだっけか。カチャンカチャン。まだやってる。まずいって病室の人たちにも聞こえるよ。病室? 病院。あぁ、入院してるんだった。カチャンカチャン。しし? なんでししがココにいるんだ!? ハッとなって目を開けた。病室の天井。まるでエヴァのシンジくん状態だ。カチャカチャという音は病室の外から聞こえてくる何かの音だった。ししまるがいるワケないのに。ヌシ様がお見舞いに来てくれたから、ししにも会いたくなったのかな。入院して初めて、少し寂しい気がした。寝汗がものすごく不快だったけど、起き上がる気にもなれずにそのまま寝た。まったく元通りにはならないとしても、早く元気になりたいなぁ。


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